高力ボルト強度とは

建物 建築力学の基礎

今回は鉄骨の設計で使う高力ボルト強度についてまとめていきたいと思います。

高力ボルト強度は鉄骨接合部の計算を行う上で最も重要な値のひとつと言って過言ではないでしょう。

この記事では初学者でも理解できるようにわかりやすく説明していきたいと思います!

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高力ボルト強度とは

高力ボルト強度とはせん断・引張などの接合方法によって異なりますが、主に高力ボルト強度を指すのは引張強度です。

高力ボルトは建築基準施行令第92条の2、第94条及び第96条の規定および建設省告示第2466号に基づき定められます。

高力ボルトにはそれぞれ強度区分が存在し、その強度区分ごとに対応する基準強度(F値)と引張強度(Fu)が存在します。強度区分の数字は主に引張強度の値を取って表記されていることが下記の表からもわかると思います。

高カボルトとは

JFE鋼構造設計便覧

高力ボルトとはナットおよび座金と合わせたセットで摩擦によって接合するボルトを指します。

鉄骨造で使われる鋼製の高カボルト(high-strength bolt) は、JIS で規定された高力六角ボルト日本製機造協会が制定したトルシア形高カボルトがあります。

高力ボルト接合はボルト接合とは異なり、高力ボルトの導入軸力とプレート間の摩擦面の滑り係数による摩擦接合になります。ボルトについての記事はこちら

高力ボルトの強度区分は(F8T, F10T, F11T)があります。

強度区分の表記の意味はFはFriction (摩擦)の頭文字で、810引張強さの下限値を表し(8は800、10は1000 N/mm2)、TTensile strength(引張強度) の頭文字である。

F11Tは遅れ破壊(高い引張応力を受けた高張力鋼が一定時間経過後に突然破断する現象)が脆性破壊になるため、現在では製造されていません。古い建物・構造物には使われています。

設計ボルト張力・標準ボルト張力とは

設計ボルト張力とは高力ボルトの滑り耐力(摩擦耐力)を算定する際に用いる導入軸力のことを指します。高校の物理で習ったように摩擦力は垂直抗力×摩擦係数で計算するので、この導入軸力が垂直抗力に該当します。記号は[To]で表し、単位は[kN]です。

標準ボルト張力とは設計ボルト張力に1割増しの張力を見込んだ値を指します。記号などは特になく、一般的に設計ボルト張力Toを使い[1.1×To]で表し、単位は[kN]です。

標準ボルト張力は施工の際のバラツキや時間とともに導入軸力が減少することを見込み、あらかじめ1割増しで設計する手法に基づく耐力です。

設計ボルト張力の計算式は以下の通りです。

[設計ボルト張力]

1種(F8T)
\(T_{o}=0.85FA_{e}\)

2種(F10T)
\(T_{o}=0.75FA_{e}\)

F :基準強度(N/mm2)
Ae:有効断面積(mm2)

例えばF10T-M16の場合、F値(基準強度)は900N/mm2、有効断面積Aeは呼び径の16から概略計算できるので、(0.75は軸断面積Aeに対する有効断面積Abの比)

\( (16/2)^2 \cdot \pi \cdot 0.75=150.75mm^2 \)

したがって設計ボルト張力は

\(T_{o}=0.75\cdot 900\cdot 150.75/10^3=101.7kN\)

他にもF値が一定あることと軸断面積を用いる方が計算しやすいので、同じく以下の計算式から計算できます。

1種(F8T)
\(T_{o}=400A_{b}\)

2種(F10T)
\(T_{o}=500A_{b}\)

Ab:軸断面積(mm2)

計算内訳は

F8Tの場合はF値(基準強度)は640N/mm2、Ab=0.75Ae つまり

\(640\cdot 0.75\cdot 0.85\fallingdotseq 400\)

F10Tの場合はF値(基準強度)は900N/mm2、Ab=0.75Ae つまり

\(900\cdot 0.75\cdot 0.75\fallingdotseq 500\)

高力ボルトのせん断力とは

高力ボルトのせん断力とは高力ボルトの導入軸力とプレート間の摩擦から求まるせん断力のことを指します。

先ほど求めた高力ボルトの導入軸力と接合面のすべり係数および接合面数からせん断耐力が決定されます。

記号は[R]で表し、単位は[kN]で表します。

高力ボルトのすべり耐力は以下の式から算出されます。

[高力ボルトのすべり耐力・許容せん断力]

\( R=m\cdot \mu\cdot T_{o}\)

m:せん断面数
μ:接合面のすべり係数
To:高力ボルトの初期導入張力(kN)

接合面のすべり係数は下記の表から算定します。

一般的に接合面は赤さび面やブラスト処理面にすることが多いのですべり係数は0.45を採用することが多いです。

長期許容せん断力

高力ボルトの長期許容せん断力はすべり耐力に安全率を除することで計算できます。計算式は

[高力ボルトのすべり耐力・許容せん断力]

\( R_{l}=m\cdot \mu\cdot T_{o}/\nu =\dfrac{2}{3}\cdot m\cdot \mu\cdot T_{o} \)

m:せん断面数
μ:接合面のすべり係数
To:高力ボルトの初期導入張力(kN)
ν:安全率(長期1.5)

短期許容せん断力

高力ボルトの短期許容せん断力は長期と同じくすべり耐力に安全率を除することで計算できます。ただし安全率が1.0となるため、すべり耐力そのものです。計算式は

[高力ボルトのすべり耐力・許容せん断力]

\( R_{s}=m\cdot \mu\cdot T_{o}/\nu \)

m:せん断面数
μ:接合面のすべり係数
To:高力ボルトの初期導入張力(kN)
ν:安全率(短期1.0)

最大せん断力

高力ボルトの最大せん断力はすべり耐力以上のせん断力が作用するのですべりが生じます。その後はボルトと同じく、支圧の状態で高力ボルトにせん断力が作用します。計算式は

[高力ボルトの最大せん断力]

\( R_{u}=Fu\cdot A_{b}/\sqrt{3} \)

Fu:引張強さ(N/mm2)
Ab:軸断面積(mm2)

F8TであればFu=800N/mm2,F10TであればFu=1000N/mm2,F11TであればFu=1100N/mm2

高力ボルトの鋼種の値からすぐにわかるので計算しやすいと思います。

例えばF10TのM16の高力ボルトの最大せん断力は

\( R_{u}=1000\cdot 201/\sqrt{3}/1000=116kN \)

高力ボルトの引張耐力とは

高力ボルトの引張耐力は高力ボルトの軸断面積から決定されます。

記号は[Rt]などで表し、単位は[kN]で表します。高力ボルトの引張耐力は以下の式から算出されます。

[高力ボルトの長期許容引張力]

F8Tの場合
\( Rt=250\cdot A_{b}\)

F10Tの場合
\( Rt=310\cdot A_{b}\)

Ab:軸断面積(mm2)

高力ボルトの短期許容引張力は長期の1.5倍に相当するので、以下の式から算出されます。

[高力ボルトの短期許容引張力]

F8Tの場合
\(Rt=250\cdot A_{b}\cdot 1.5\)

F10Tの場合
\(Rt=310\cdot A_{b}\cdot 1.5\)

Ab:軸断面積(mm2)

最大引張耐力

高力ボルトの最大引張耐力は引張強さと高力ボルトの有効断面積から計算されます。計算式は

[高力ボルトの最大引張耐力]

\( R_{tu}=Fu\cdot A_{e} \)

Fu:引張強さ(N/mm2)
Ae:有効断面積(mm2)

例えばF10TのM16の高力ボルトの最大引張耐力は

\( R_{tu}=1000\cdot 157/1000=157kN \)

まとめ

今回は高力ボルトの強度についてまとめてみました。

高力ボルトの強度は鋼構造設計をするなかで最も重要な値の一つです。この値を基準に接合部のボルト径・本数・配置などを決めたりしていきます。

一級建築士試験において高力ボルトの強度について問われることはほとんどありませんが、構造設計を生業とする算出の方法を頭の片隅おいておく程度で覚えてください。

高力ボルトの強度を確認する場合はぜひ本ブログを読み直してみて下さい!!

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