今回は2022年に話題となった四号特例の廃止についてまとめていきたいと思います。
この問題は多くの建築士及び構造設計に関わる人あるいはいまから一軒家を購入を考えている人にまで波及する問題です。
私自身も多くの記事など読みましたが少しわかりづらかったので自分なりにわかりやすく解説していこうと思います。
それではよろしくお願いいたします。
そもそも4号建築物ってなんだっけ?
四号特例の四号とは
まず四号とは建築基準法第6条の四号に該当する建築物を指します。
建築基準法6条は建築物の申請及び確認についてを規定しています。その中で規模や用途ごとに大きく4種類に分類しています。
(建築物の建築等に関する申請及び確認)
第6条 建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号から第三号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。当該確認を受けた建築物の計画の変更をして、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号から第三号までに掲げる規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第四号に掲げる建築物を建築しようとする場合も、同様とする。
- 一 別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超えるもの
- 二 木造の建築物で3以上の階数を有し、又は延べ面積が500㎡、高さが13m若しくは軒の高さが9mを超えるもの
- 三 木造以外の建築物で2以上の階数を有し、又は延べ面積が200㎡を超えるもの
- 四 前三号に掲げる建築物を除くほか、都市計画区域若しくは準都市計画区域若しくは景観法第74条第1項の準景観地区内又は都道府県知事が関係市町村の意見を聴いてその区域の全部若しくは一部について指定する区域内における建築物
6条での規定は建築主事(いわゆる第三者)によって建築基準法に準拠した建築物であることを確か確認済証をもらいなさいと言っています。
建築物を確認する中で用途や規模ごとに確認事項が用途様々変わるので一号から四号で分類しています。
今回注目すべき四号建築物を簡潔にまとめると一号から三号に該当しない小規模な建物を四号建築物といいます。
一号から三号に該当しない建築物は
- 特殊建築物でないもの
- 木造 2階以下 延床面積500㎡以下 最高高さ13m以下、軒の高さ9m以下
- 鉄骨・RC造 平屋 延床面積200㎡以下
以上の建築物がいわゆる四号建築物です。
建築主事の審査の特例
つぎに審査の特例を規定した法令が建築基準法第6条の4です。
(建築物の建築に関する確認の特例)
第6条の4 第一号若しくは第二号に掲げる建築物の建築、大規模の修繕若しくは大規模の模様替又は第三号に掲げる建築物の建築に対する第6条及び第6条の2の規定の適用については、第6条第1項中「政令で定めるものをいう。以下同じ」とあるのは、「政令で定めるものをいい、建築基準法令の規定のうち政令で定める規定を除く。以下この条及び次条において同じ」とする。
- 一 第68条の10第1項の認定を受けた型式(次号において「認定型式」という。)に適合する建築材料を用いる建築物
- 二 認定型式に適合する建築物の部分を有する建築物
- 三 第6条第1項第四号に掲げる建築物で建築士の設計に係るもの
2 前項の規定により読み替えて適用される第6条第1項に規定する政令のうち建築基準法令の規定を定めるものにおいては、建築士の技術水準、建築物の敷地、構造及び用途その他の事情を勘案して、建築士及び建築物の区分に応じ、建築主事の審査を要しないこととしても建築物の安全上、防火上及び衛生上支障がないと認められる規定を定めるものとする。
第6条の4は特例事項を示しています。1項のなかで特例を受ける建築物を分類し、一号から三号を定めています。(法6条の一~四号とはまた異なるので注意が必要です。)
そして2項の規定により特例を受けられる建築物は、建築士の技術水準と敷地や用途も規模が小さいことを鑑みて、建築主事(第三者)の審査をせずとも、安全性・防火性能・衛生の問題はないと判断するということです。
つまり、特例を受けられる建築物を審査をする際には、業務の効率化の観点から不必要な提出物の作成は省略できるということです。
特例によって省略できる規定
建築基準法施行令第10条では審査を省略できる規定を示しています。
第三節 建築物の建築に関する確認の特例
第10条 法第6条の4第1項の規定により読み替えて適用される法第6条第1項の政令で定める規定は、次の各号に掲げる建築物の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める規定とする。
- 一 法第6条の4第1項第二号に掲げる建築物のうち、その認定型式に適合する建築物の部分が第136条の2の11第一号に掲げるものであるもの その認定型式が、同号イに掲げる全ての規定に適合するものであることの認定を受けたものである場合にあつては同号イに掲げる全ての規定、同号ロに掲げる全ての規定に適合するものであることの認定を受けたものである場合にあつては同号ロに掲げる全ての規定
- 二 法第6条の4第1項第二号に掲げる建築物のうち、その認定型式に適合する建築物の部分が第136条の2の11第二号の表の建築物の部分の欄の各項に掲げるものであるもの 同表の一連の規定の欄の当該各項に掲げる規定(これらの規定中建築物の部分の構造に係る部分が、当該認定型式に適合する建築物の部分に適用される場合に限る。)
- 三 法第6条の4第1項第三号に掲げる建築物のうち防火地域及び準防火地域以外の区域内における一戸建ての住宅(住宅の用途以外の用途に供する部分の床面積の合計が、延べ面積の1/2以上であるもの又は50㎡を超えるものを除く。) 次に定める規定
- イ 法第20条(第1項第四号イに係る部分に限る。)、法第21条から法第25条まで、法第27条、法第28条、法第29条、法第31条第一項、法第32条、法第33条、法第35条から法第35条の3まで及び法第37条の規定
- ロ 次章(第一節の三、第32条及び第35条を除く。)、第三章(第八節を除き、第80条の2にあつては国土交通大臣が定めた安全上必要な技術的基準のうちその指定する基準に係る部分に限る。)、第四章から第五章の二まで、第五章の四(第二節を除く。)及び第144条の3の規定
- ハ 法第39条から法第41条までの規定に基づく条例の規定のうち特定行政庁が法第6条の4第2項の規定の趣旨により規則で定める規定
- 四 法第6条の4第1項第3号に掲げる建築物のうち前号の一戸建ての住宅以外の建築物 次に定める規定
- イ 法第20条(第一項第四号イに係る部分に限る。)、法第21条、法第28条第1項及び第2項、法第29条、法第30条、法第31条第一項、法第32条、法第33条並びに法第37条の規定
- ロ 次章(第20条の3、第一節の3、第32条及び第35条を除く。)、第三章(第八節を除き、第80条の2にあつては国土交通大臣が定めた安全上必要な技術的基準のうちその指定する基準に係る部分に限る。)、第109条、第五章の四(第129条の2の4第一項第6号及び第7号並びに第二節を除く。)及び第144条の3の規定
- ハ 法第39条から法第41条までの規定に基づく条例の規定のうち特定行政庁が法第6条の4第二項の規定の趣旨により規則で定める規定
各号の中で記載のある条文が四号特例によって確認申請の審査から除外できるものになります。これだけ多くの条文が除外できるので四号特例の恩恵は大きいものと想像できます。
このなかで特に注目したいのが三号と四号にあるイの法第20条第一項第四号イです。
(構造耐力)
第二十条 建築物は、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして、次の各号に掲げる建築物の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める基準に適合するものでなければならない。~中略~
- 四 前三号に掲げる建築物以外の建築物 次に掲げる基準のいずれかに適合するものであること。
- イ 当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合すること。
- ロ 前三号に定める基準のいずれかに適合すること。
法第20条第一項の”第一号~三号”及び”四号のロ”は構造計算によって建築物が大丈夫かどうかを確認しなさい規定であり、
それとは対照的に法第20条第一項の”四号のイ”は仕様規定によって建築物が大丈夫かどうかを確認しなさい規定になります。
四号特例の問題点
ここまでで四号建築物の特例について紹介してきました。ここから四号建築物の問題点を提起していきたいと思います。
まず一つ目に建築設計士の勘違いにあります。
四号建築物の特例は法6条の4によって建築主事の「審査を要しない」こととなり、その項目の法適合確認は設計者の方々が行うこととなっています。
しかしながら建築士のなかには「審査を要しない=適合確認を省略できる」という間違った認識を持った建築士が少なからずいるのです。
そして二つ目にその間違った認識のまま設計してしまったがゆえに違反建築物が乱立してしまっている問題があります。
例えば新築一戸建ての場合も、実際に法適合の確認を行ったところ壁量計算や4分割法(壁をバランスよく配置する計画)が不適合となり、構造耐力不足のまま建てられてしまっているという事例が報告されています。先の熊本地震での被害も報告されています。詳細はこちら
つぎに三つ目に仕様規定の壁量計算やN値法は構造計算ではないので、建築物として構造計算が義務付けされていないかつ資料の提出が求められていないのはどうなのかという議論があります。
四号特例は以前から廃止の動きがありましたが、2005年(平成17年)の姉歯の構造計算書偽造事件後に構造計算に関する法規制が厳しくなったため、一気に住宅着工件数が減りました。加えて四号建築物を廃止してしまうとさらに住宅着工件数が減ってしまう「官製不況」想定がされたため構造計算の厳格化と四号特例は一定の移行期間として併用されてきた歴史があります。
そしてようやく2022年になって四号特例の見直しが行われようとしているのです。
さいご四つ目に構造計算できる建築士の数が少ない点です。これは私の分野でもあるのでよくわかりますが、建築士は意匠・設備・構造・施工のように4つに大別されています。
それぞれが高い専門性を持ちますが、一方で他の分野に精通している建築士はほとんどいないのが一般的です。構造の分野はもともと数学と物理を得意とする人が多いので、そうでない人達からすれば難しい・理解しづらいなどで人気がないのはよくわかります。
日本の人口が減り、建築士・設計士自体の母数が減ってきているので、この問題は建築の問題というよりは日本全体の問題ともいえると思います。
四号特例の廃止・改正について
四号特例の廃止は先ほども述べたように以前から議論はありましたが2022年になり国会に「四号特例縮小法案」が提出されました。
2025年ごろから施行される見通しとなっています。
四号特例の何が変わるのか
つぎに何が変わるのかについてですが、
大きくは建築基準法第6条第1項4号が消え、新3号建築物が特例対象となります。つまりは四号特例から新三号特例になります。
簡単に特例の対象をまとめると以下のようになります。
〈今までの特例対象〉
- 特殊建築物以外の不特定多数が利用しない建物
- 木造2階 延床面積が500㎡以下 高さが13m若しくは軒の高さが9mを超えるもの
- 鉄骨造・RC造 平屋延床面積が200㎡以下の建物
〈新法案〉
- 特殊建築物ではなく、不特定多数が利用ない建物
- 平家の建物 延床面積が300㎡以下
- 木造と非木造の区別がなくなる
これによって特例対象の建築物が減り、より小規模な建物のみが構造図・構造計算書の提出を省略できます。(提出の義務はありませんが、法適合の確認義務はあります。)
一方で木造2階建てとなれば提出義務は発生するので業務量の増加が見込まれます。
ただし現時点では許容応力度・構造計算は求められないようです。今後の法規制の動向をチェックしていきたいです。
まとめ
今回は四号特例の廃止についてまとめてきました。私自身、建築基準法をじっくりとみて嚙み砕いて紹介してみましたがそれもで頭が混乱することが多々あったので、とても理解が難しいです。
四号建築物自体を縮小させること自体は住宅の購入者・消費者を守るためにも必要な改正で非常にいいニュースではあると思います。一方で建築士は仕事が増えるので忙しくなることも見通しがつきます。この改正は建築構造業界の大きな転換点(ターニングポイント)でもあるので、ビジネスチャンスも広がりそうです。改正によって不正な建築士が淘汰され、優秀な構造設計士が増えれば個人的にはうれしいです。
皆さんの皆さんのコメントしていただけると幸いです。
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