今回は地震荷重についてわかりやすく解説していきたいと思います。
地震荷重は建築の構造設計を行う上でとても重要な荷重の知識です。ぜひこの記事を参考にしてみて下さい!!
地震荷重とはなんだ??
地震荷重とは
地震荷重(英:Earthquake Load)とは地震時にかかる建築物に作用する荷重を指します。地震荷重は主に固定荷重および積載荷重の重量を(建物を建てる地域が多雪区域であれば積雪荷重も)もとに求めることができます。
地震荷重の記号は[E]または[EL]で表記され、単位は力の[kN],[N]です。
固定荷重と積載荷重についてはこちらの記事を参考にしてみて下さい
⇒固定荷重とは
⇒積載荷重とは
建築基準法施行令第88条
地震荷重の細かい細則については建築基準法施行令第88条に記載があります。
建築物の地上部分の地震力については、当該建築物の各部分の高さに応じ、当該高さの部分が支える部分に作用する全体の地震力として計算するものとし、その数値は、当該部分の固定荷重と積載荷重との和(第86条第2項ただし書の規定により特定行政庁が指定する多雪区域においては、更に積雪荷重を加えるものとする。)に当該高さにおける地震層せん断力係数を乗じて計算しなければならない。
建築基準法施行令第88条
多雪区域に関しては長期的に積雪荷重が作用することを考慮して短期において積雪荷重と地震荷重を同時に考慮した荷重組み合わせとします。
多雪区域に関してはこちらの記事を参考にしてください!⇒積雪荷重とは
地震時の水平力は一様に作用させるのではなく高さが高くなるほど水平力を割り増して計算するように求められています。こちらはAi分布係数にて求めることができます。
地震荷重の加力方向
地震荷重といっても単に一方向からだけではありません。建築基準法では言及されていませんが建物には3つの座標軸(X,Y,Z)があります。地震荷重の加力方向は多くの方は水平方向の力はイメージがつくかもしれませんが、地震には鉛直方向の力も同じく作用しています。
水平地震力は主に4方向からの加力を考慮します。
- +X
- -X
- +Y
- -Y
鉛直地震力は2方向からの加力を考慮します。
- +Z
- -Z
これらを同時考慮するのが一般的です。
4本柱規定 (国土交通省告示第594号第2項3号ロ)
地震力の加力方向とあわせて覚えておきたいのが、国土交通省告示第594号第2項3号ロの規定です。
地階を除く階数が4以上である建築物又は高さが20メートルを超える建築物のいずれかの階において,当該階が支える部分の常時荷重の20パーセント以上の荷重を支持する柱を架構の端部に設ける場合 建築物の張り間方向及びけた行方向以外の方向に水平力が作用するものとして令第82条第一号から第三号までに規定する構造計算を行い安全であることを確かめること。
国土交通省告示第594号第2項3号ロ
要約すると地階を除く階数が4階以上かつ20m以上の建物で常時で柱にかかるか荷重が20%を超えるときに±X、±Y方向だけでなくその他の角度、例えば45度方向からの地震力に対しても十分に安全であることを計算で求めなければなりません。
常時で柱にかかる荷重が20%を超えるというのは4本柱の場合、単純計算で柱一本あたりにかかる建物の重量は25%となり、20%を超えるのでたとえ偏荷重だとしてもどこかの柱にかかる荷重は必然的に20%を超えるのでこの規定が4本柱規定と言われる由縁です。
地震荷重の算定
地震荷重Qiの基本値は以下の式で求めらます。
[地震荷重]
\(Qi=C_{0}\cdot Wi\)
[i階の層せん断力係数]
\(Ci=Z\cdot Rt\cdot Ai\cdot C_{0}\)
Wi:i階の重量(kN)
Z:地域係数
Rt:振動特性係数
Ai:i階のせん断力分布係数(Ai分布)
C0:標準層せん断力
地震層せん断力係数についてはこちらの記事を参考にしてみて下さい。
地域係数とは(Z)
地域係数とは建築物を建てる地域によって地震の起きる頻度にバラツキがあるため、地震の頻度のバラツキを地域ごとに係数で表した値が地域係数になります。地域係数の大きさは
- Z=1.0
- Z=0.9
- Z=0.8
- Z=0.7
の4段階で区分されています。例えば沖縄県であれば地域係数がZ=0.7となるので他の地域よりも地震が起きる頻度が少ないことがわかります。
地域係数の記号は[Z]で表し、単位は無次元です。地域係数を表形式で表したものを下記のリンクで示しますので確認してみて下さい。
地域係数Zについて詳細にまとめた記事はこちらになります。よろしければ参考にしてみて下さい。
振動特性係数とは(Rt)
振動特性係数とは建築物を支える地盤と建物の持つ固有周期によって変化する地震動の大きさを係数で表した値が振動特性係数になります。
振動特性係数は1次固有周期が地盤種別による周期Tcの値を下回るとRtが1.0を下回ります。比較的強い地盤(第1種地盤)の方が振動特性係数が小さくなる傾向にあることと、1次固有周期が地盤周期Tcの2倍になるとRt=0.8になると覚えておきましょう!
地域係数の記号は[Rt]で表し、単位は無次元です。
[振動特性係数]
T<Tcの場合
\(Rt=1.0\)
Tc≦T<2Tcの場合
\(Rt=1-0.2\left(\dfrac{T}{Tc}-1\right)^2\)
2Tc≦Tの場合
\(Rt=1.6Tc/T\)
Tc:地盤種別による係数
T:設計用1次固有周期 ∴T=h(0.02+0.01α)
h:当該建築物の高さ
α:当該建築物のうち柱及びはりの大部分が鉄骨造である階(地階を除く)の高さの合計のhに対する比(鉄骨造の場合 α=1)
地盤の種別による数値(Tc)
地盤種別は建築物を支える地盤の主たる土質によって値が変わります。地盤種別は記号で[Tc]で表し、単位は周期の[sec],[s]で表現します。
- 第1種地盤 (Tc=0.4)
- 第2種地盤 (Tc=0.6)
- 第3種地盤 (Tc=0.8)
の3つに分けられます
第1種地盤 Tc=0.4
岩盤、硬質砂れき層その他主として第三紀以前の地層によって構成されているもの又は地盤周期等についての調査若しくは研究の成果に基づき、これと同程度の地盤周期を有すると認められるもの
第2種地盤 Tc=0.6
第1種地盤及び第3種地盤以外のもの
第3種地盤 Tc=0.8
腐植土、泥土その他これらに類するもので大部分が構成されている沖積層(盛土がある場合においてはこれを含む。)で、その深さがおおむね30メートル以上のもの、沼沢、泥海等を埋め立てた地盤の深さがおおむね3メートル以上であり、かつ、これらで埋め立てられてからおおむね30年経過していないもの又は地盤周期等についての調査若しくは研究の成果に基づき、これらと同程度の地盤周期を有すると認められるもの
振動特性係数Rtについて詳細にまとめた記事はこちらになります。よろしければ参考にしてみて下さい。
Ai分布とは
Ai分布とは層せん断力係数の高さ方向の分布を表したもので、1層目の分布係数を1.0とし上の階になればなるほど分布係数は大きくなります。また1次固有周期が長くなればなるほど大きな値となります。
Ai分布は2F(1層目)をAi=1.0としたとき、2Fよりも上階の層せん断力係数がどのような比率で大きくなっているかを示したものがAi分布です。上図のグラフからも読み取れるように一般的に上階に行けば行くほど横に振られる力が大きくなるので水平力は大きくなります。
Ai分布の記号は[Ai]で表し、単位は無次元です。Ai分布を式で表すと
[Ai分布]
\(A_{i}=1+\left(\dfrac{1}{\sqrt{\alpha_{i}}}-\alpha_{i}\right)\dfrac{2T}{1+3T}\)
\(\displaystyle\alpha_{i}=\sum_{j=i}^{n}W_{j} /\sum_{j=1}^{n}W_{j}\)
\(\displaystyle\sum_{j=i}^{n}W_{j}\):当該階より上階の重量の総和
\(\displaystyle\sum_{j=1}^{n}W_{j}\):1階より上階の重量の総和
T:1次固有周期
Ai分布の詳しい解説は以下の記事を参考にしてみて下さい
Ai分布とは
標準層せん断力係数とは(Co)
層せん断力係数は地震時に建物が受ける応答加速度になります。
せん断力係数=地震加速度
せん断力係数×質量(重量)=地震力
と認識しても遜色ないです。標準層せん断力が大きければ地震力は大きくなります。
層せん断力係数に”標準”と名が付くと標準となるべき地震力を定めたもの、つまりは建築基準法で定めた地震力(加速度)の大きさです。
標準層せん断力係数の記号は[Co]で表し、単位は無次元です。
標準層せん断力係数については建築基準法施行令第88条2項と3項に記載があり、
2 標準せん断力係数は、0.2以上としなければならない。ただし、地盤が著しく軟弱な区域として特定行政庁が国土交通大臣の定める基準に基づいて規則で指定する区域内における木造の建築物(第46条第2項第一号に掲げる基準に適合するものを除く。)にあつては、0.3以上としなければならない。
3 第82条の3第二号の規定により必要保有水平耐力を計算する場合においては、前項の規定にかかわらず、標準せん断力係数は、1.0以上としなければならない。
建築基準法施行令第88条2項
上記の引用をまとめると
- 基本はCo=0.2以上
- 軟弱地盤における木造建築物木造建築物はCo=0.3以上
- 必要保有水平耐力計算時はCo=1.0以上
また別途覚えておきたいのが鉄骨造の構造物計算ルートが1-1または1-2の場合はCo=0.3以上で許容応力度計算を行います。
標準層せん断力についての詳しい解説はこちらの記事を参考にしてみてください。
地震荷重の計算例
ここからは地震荷重の計算例を示していきます。
1.固定荷重と積載荷重の算定
地震荷重の計算するためにまずは固定荷重と積載荷重の算出が第一です
固定荷重はコンクリートスラブの重量のみなので各階の固定荷重は
\(DL=0.15\cdot 100 \cdot 24 =360kN\)
積載荷重は事務室の表の(は)の地震用積載荷重を使います。
2,3階の積載荷重は
\(LL=0.8\cdot 100=80kN\)
4階の積載荷重は
\(LL=0.6\cdot 100=60kN\)
まとめると
階 | 固定荷重 | 積載荷重 | 合計[Wi] |
---|---|---|---|
4F(3層) | 360kN | 60kN | W3=420kN |
3F(2層) | 360kN | 80kN | W2=440kN |
2F(1層) | 360kN | 80kN | W1=440kN |
2.地域係数の算定
つぎに地域係数を求めます。地域係数は表から読み取ります。今回は東京都内ということで
\(Z=1.0\)
3.振動特性係数の算定
つぎに振動特性係数を求めます。振動特性係数を求めるためにまずは1次固有周期を求めます。1次固有周期は建築物の主構造と建物高さがわかれば求めることができます。
\(\alpha=1.0\)
\(T=12(0.02+0.01\cdot 1.0)=0.36\)
1次固有周期と地盤種別Tc=0.8より振動特性係数を求めます。
T<Tcの場合
\(Rt=1.0\)
4.Ai分布の算定
Ai分布の算出は長くなるので今回は省略します。同じ問題で解いているので詳しい解説はこちらの記事を参考にしてみて下さい⇒Ai分布とは
階 | 固定+積載 | 当該階よりも 上階の重量の総和 | αi | Ai |
---|---|---|---|---|
4F(3層) | 420kN | 420kN | 0.323 | 1.497 |
3F(2層) | 440kN | 860kN | 0.662 | 1.196 |
2F(1層) | 440kN | 1300kN | 1.000 | 1.000 |
全層の合計 | 1300kN | – | – | – |
5.各階の地震力の算定
最後に各階の地震力Qiを算出していきます。先ほどの表と今まで算出してきた数値をまとめると
階 | 固定+積載 Wi | αi | Ai | Z | Rt | Co | Qi [kN] |
---|---|---|---|---|---|---|---|
4F(3層) | 420kN | 0.323 | 1.497 | 1.0 | 1.0 | 0.2 | 125.75 |
3F(2層) | 440kN | 0.662 | 1.196 | 1.0 | 1.0 | 0.2 | 105.25 |
2F(1層) | 440kN | 1.000 | 1.000 | 1.0 | 1.0 | 0.2 | 88.0 |
全層の合計 | 1300kN | – | – | – | 319.0 |
このように地震力を求めることができます
引用元:建築物荷重指針・同解説
まとめ
今回は地震荷重についてまとめてきました。地震荷重は建築設計において重要なキーワードです。
もし地震荷重が分からなくなった場合はこちらの記事を参考にしてみてください!!
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