今回は材料力学の幅厚比についてまとめていきたいと思います
幅厚比は一級建築士の学科試験の構造でよく出題されます。聞き慣れない言葉も多くあるので難しいと印象を持つ人も少なくありません
この記事では初学者でも理解できるようにわかりやすく説明していきたいと思います!
幅厚比とは
幅厚比(英:width-thickness ratio)とは鋼材の持つ板幅に対する厚さの比のことを指します。
幅厚比の考え方は板の幅はより小さく、板厚はより厚いほうが有利です。
幅厚比は局部座屈を起こすか起きないかの度合いを示す値でもあります。
幅厚比の規定を満足することで局部座屈による影響を無視できます。一方で幅厚比の規定を超えた場合は設計上では幅厚比の規定を満足するような断面となるように有効断面の控除を行い、有効断面で断面算定を行います。(以下で後述する。)
局部座屈とは
局部座屈とは長く薄い板材に対して部材に力を加えると部材が局部的な曲げ破壊を起こします。板厚が薄い時に起きそうな座屈と認識してもらって問題ないです。
例えばトイレットペーパーに上から一定の以上の力を加えるとベコッと曲がると思います。それが局部座屈です。
局部座屈は幅厚比の影響を強く受けるのでに幅厚比の規定により局部座屈の起きるかどうかを判断しています。
他にも様々な種類の座屈があります。
- 弾性座屈(オイラー座屈)
- 非弾性座屈
- 曲げ座屈(横座屈)
- 局部座屈
ここでは長くなり趣旨とは異なるので他の記事を参考にしてみて下さい。
部材の座屈しにくさについて→細長比とは
弾性座屈について→弾性座屈荷重とは
幅厚比の規定
幅厚比の規定は大きく山形鋼の場合、梁のフランジの場合、柱のウェブ・角型鋼管の場合、梁のウェブの場合の4つに大別されています。
1縁支持、他縁自由の板厚突出部分
[単一山形鋼, はさみ板を持つ複山形鋼]
\(\dfrac{b}{t}\leqq 0.44 \sqrt{\dfrac{E}{F}}\)
[梁フランジ]
\(\dfrac{b}{t}\leqq 0.56 \sqrt{\dfrac{E}{F}}\)
E:ヤング係数(N/mm2)
F:基準強度(N/mm2)
2縁支持の板
[柱のウェブ・角型鋼管]
\(\dfrac{d}{t}\leqq 1.6 \sqrt{\dfrac{E}{F}}\)
[梁のウェブ]
\(\dfrac{d}{t}\leqq 2.4 \sqrt{\dfrac{E}{F}}\)
E:ヤング係数(N/mm2)
F:基準強度(N/mm2)
ヤング係数は材料による硬さで鋼材の場合では
E=205000N/mm2
基準強度は鋼そのものの強さを数値的に表したもので、一般的な鋼材のSS400・SN400材(板厚40mm以下)のならば
F=235N/mm2
SN490材(板厚40mm以下)のならば
F=325N/mm2
径厚比の規定
径厚比は幅厚比を円形鋼管用に置き換えだけなので考え方は同じで、直径は小さく管厚は厚いほうが有利です。
[円形鋼管の径厚比]
\(\dfrac{D}{t}\leqq 0.114\dfrac{E}{F}\)
E:ヤング係数(N/mm2)
F:基準強度(N/mm2)
幅厚比の規定を超えた場合の有効断面の算出
H形鋼の有効断面
[フランジ-柱および梁]
\(B’=B-2t_{f}\cdot 0.53\sqrt{E/F}\)
[ウェブ-柱]
\(H’=H-2t_{f}-2r-t_{w}\cdot 1.6\sqrt{E/F}\)
[ウェブ-梁]
\(H’=H-2t_{f}-2r-t_{w}\cdot 2.4\sqrt{E/F}\)
r:フィレット半径(mm)
E:ヤング係数(N/mm2)
F:基準強度(N/mm2)
角型鋼管・鋼管の有効断面
[角型鋼管]
\(H’=H-2r-t\cdot1.6\sqrt{E/F}\)
\(B’=B-2r-t\cdot1.6\sqrt{E/F}\)
[鋼管]
\(H’=H-t\cdot0.114\dfrac{E}{F}\)
E:ヤング係数(N/mm2)
F:基準強度(N/mm2)
有効断面の求め方
有効断面の求め方は
- 幅厚比の計算を行う
- フランジ・ウェブの控除される断面積を計算する
- 断面を控除した有効断面での断面二次モーメント・断面係数を計算する
幅厚比の計算
具体的なH形鋼H-346x174x6x9 SS400材(F=235N/mm2)で柱での用途を想定したものを例にしながら解いていきます。(一般的なJISのH形鋼のほとんどが幅厚比の規定を満足していますが一部規定を満たせていないものもあります。)
柱フランジの幅厚比の規定は
\(\dfrac{b}{t}\leqq 0.56 \sqrt{\dfrac{E}{F}}\)
\(\dfrac{150}{15}\leqq 0.56 \sqrt{\dfrac{205000}{235}}\)
\(10\leqq 16.5\)
フランジの幅厚比は満足したので、指針によれば局部座屈は起こらないです。
柱-ウェブの幅厚比の規定は
\(\dfrac{d}{t}\leqq 1.6\sqrt{\dfrac{E}{F}}\)
\(\dfrac{d}{t}=\dfrac{328}{9}=54.7\)
\(1.6\sqrt{\dfrac{205000}{235}}=47.3\)
\(54.7\geqq 47.3\)
ウェブの幅厚比は満足していないので、有効断面積の控除が生じます。
柱-ウェブの控除断面積は
\(H’=H-2t_{f}-2r-t_{w}\cdot 1.6\sqrt{E/F}\)
\(H’=328-2\cdot13-6\cdot 1.6\sqrt{205000/235}\)
\(H’=18.46\)
柱-ウェブの控除断面の断面二次モーメントは
\(Ix’=t_{w}H’^3/12\)
\(Ix’=6\cdot 18.46^3/12=3145\)
有効断面の断面二次モーメントは
\(Ix-Ix’=1065889444-3145=106586299mm^4\)
断面二次モーメントについての記事はこちら
有効断面の断面係数は
\(Z’=\dfrac{Ix-Ix’}{yo}\)
\(Z’=106586299/(346/2)=616105mm^3\)
断面係数についての記事はこちら
まとめ
今回は幅厚比についてまとめてみました
幅厚比は局部座屈に影響を及ぼす要因の一つです。
一級建築士試験において幅厚比の求め方は覚える必要はありませんが、幅厚比の意味や内容については必ず覚えてください
幅厚比は難しい分野ではありますが計算自体は難しくないため、ぜひ何度も読み直し理解してみて下さい!!
コメント