今回は積雪荷重についてわかりやすく解説していきたいと思います。
積雪荷重は建築の構造設計を行う上で最初に必要な荷重の知識です。荷重は構造設計を扱う上で最も重要なキーワードなので、ぜひこの記事を参考にしてみて下さい!!
積雪荷重ってなんだ??
この記事は建築基準法施行令第86条および建設省告示1455号を参照します。
積雪荷重とは
積雪荷重(英:Snow Load)別名 雪荷重とは建築物の屋根やバルコニーに作用するを雪の荷重を指します。雪荷重は積雪地域、そして屋外に露出している範囲のみに適用するので、そもそも雪が降らない沖縄県や屋内の床範囲に積雪荷重は適用しません。
積雪荷重は鉛直下向きの等分布荷重を床面積で均した平米荷重で計算します。
積雪荷重の記号は[S]または[SL]で表記され、単位は単位面積重量の[kN/m2],[N/m2]です。
積雪荷重の設定と算定
積雪荷重の設定と算定の算定方法は荷重指針によると、
雪荷重として、建築物や立地環境に応じて屋根雪荷重,局所的屋根荷重,その他の雪荷重を適切に設定する.このうち屋根雪荷重は、建設地の地上積雪深をもとに設定した地上積雪重量に屋根形状係数を乗じて求める.装置や技術などを用いて確実に屋根積雪量を制御できる場合には,雪荷重を低減することができる.
建築物荷重指針・同解説
と記載があります。雪荷重は屋根全体にかかる荷重だけでなく局所的に積雪した場合も想定し適切に考慮することが必要となります。また後述しますが屋根の勾配によって雪荷重を低減することも可能です。同じく装置などで融雪をできたり、雪下ろしの慣習があり、雪荷重を制御できるのであれば雪荷重を低減することも可能です。
建築基準法施行令 86条
建築基準法施行令の86条において積雪荷重についての詳しい記載があります。
積雪荷重は、積雪の単位荷重に屋根の水平投影面積及びその地方における垂直積雪量を乗じて計算しなければならない。
2 前項に規定する積雪の単位荷重は、積雪量1cmごとに1m2につき20N以上としなければならない。ただし、特定行政庁は、規則で、国土交通大臣が定める基準に基づいて多雪区域を指定し、その区域につきこれと異なる定めをすることができる。
3 第1項に規定する垂直積雪量は、国土交通大臣が定める基準に基づいて特定行政庁が規則で定める数値としなければならない。
4 屋根の積雪荷重は、屋根に雪止めがある場合を除き、その勾配が60度以下の場合においては、その勾配に応じて第1項の積雪荷重に次の式によつて計算した屋根形状係数(特定行政庁が屋根ふき材、雪の性状等を考慮して規則でこれと異なる数値を定めた場合においては、その定めた数値)を乗じた数値とし、その勾配が60度を超える場合においては、零とすることができる。
5 屋根面における積雪量が不均等となるおそれのある場合においては,その影響を考慮して積雪荷重を計算しなければならない。
6 雪下ろしを行う慣習のある地方においては,その地方における垂直積雪量が1mを超える場合においても,積雪荷重は,雪下ろしの実況に応じて垂直積雪量を1mまで減らして計算することができる。
7 前項の規定により垂直積雪量を減らして積雪荷重を計算した建築物については,その出入口,主要な居室又はその他の見やすい場所に,その軽減の実況その他必要な事項を表示しなければならない。
建築基準法施行令 86条
積雪荷重の求め方
積雪荷重の基本値は以下の式で求めらます。
[積雪荷重(床荷重)]
\(S=d*\rho \)
[積雪荷重(合計荷重)]
\(S=d*\rho *A\)
d:垂直積雪量(cm)
ρ:単位積雪重量(N/cm/m2)
A:床面積(m2)
垂直積雪量はその区域で過去に計測された積雪量をもとに設定される値です。
単位積雪重量は単位体積あたりの雪の重量です。簡単いえば1cmの積雪があった時の重量です。単位積雪重量の値は一般地域で20N/cm/m2、多雪地域で30N/cm/m2として計算します。
同じ雪でも豪雪地帯で降る雪と関東で降る雪は質量が違うということになります。水の重量が100N/cm/m2なので水の1/5、1/3の荷重が設定されていることがわかります。
例えば 垂直積雪量が20cmで、単位積雪重量が20N/cm/m2で床面積が100m2 としたならば積雪荷重(の平米荷重)は
\(S=d*\rho =20*20=400N/m^2 \)
床全体にかかる積雪荷重は
\(S=d*\rho *A=0.02*20*100\)
\(=40000N=40kN\)
多雪区域とは
多雪区域はその名の通り積雪の多い地域を指します。建築物が多雪区域に該当する場合、長期荷重で積雪荷重を見込む必要があるので一般的な地域に比べて柱は太くするあるいは柱の強度を強くします。
多雪区域の定義は平成12年建設省告示1455号に記載があります。定義の内容は
1. 垂直積雪量が1m以上の区域
平成12年建設省告示1455号
2. 積雪の初終間日数の平均値が30日以上の区域
とはいっても実際に手元に細かい設計資料がなく多雪区域かそうでないかが判断できない場合は当該建築物を建てる市町村の役場の建設課の担当者に直接問い合わせするのが最も正しく、最も早い解決策だと思われます。
私自身も過去に問い合わせて確認したことがあります。
多雪区域か判断が難しいときは、役所に問い合わせてみよう!!
垂直積雪量とは
垂直積雪量とは設計上の屋根に乗る積雪量を指します。
6項の規定にあるように雪下ろしの慣習があれば垂直積雪量を1mとして設計することができます
垂直積雪量の記号は[d]または[D]で表記され、単位は厚さの[m],[cm]が一般的です。
\(d=\alpha・ls+\beta・rs+\gamma\)
α・β・γ:区域に応じて別表の当該各欄に掲げる数値
ls:区域の標準的な標高(m)
rs:区域の標準的な海率(区域に応じて別表のRの欄に掲げる半径(km)の円の面積に対する当該円内の海その他これに類するものの面積の割合をいう。
α・β・γおよびRの値は数が多くため外部サイトを参照されたい
外部サイト:垂直積雪量の数値表
計算例として東京駅を計算してみます。標高は3m採用します。区域の標準的な海率は半径Rの図を描き、下記の図から大体20%くらいと推測します。(設計する際は精査して行ってください)
\(\alpha=0.0005\)
\(\beta=-0.06\)
\(\gamma=0.28\)
\(R=40\)
\(rs=20%=0.2\)
\(d=0.0005・3-0.06・0.2+0.28=0.2695\)
したがって東京駅の垂直積雪量はおおよそd=27cmと算出できます。
屋根勾配係数とは
屋根勾配係数とは積雪荷重を屋根の勾配に合わせて低減することが可能なのでそれを数値的に表した係数をいいます。屋根勾配係数によって低減する場合の条件は
- 屋根に雪止めがある場合は適用できない
- 屋根勾配によって積雪の滑落に配慮する必要がある
- 60度以上の勾配はμb=0つまり雪荷重を見込まなくてよい
屋根勾配係数の記号は[μb]で表記され、単位は無次元です。
\(\mu b=\sqrt{\cos(1.5\beta)}\)
β:屋根勾配(度)
したがって屋根勾配係数を考慮した場合の積雪荷重S’は
\(S’=\mu b\times S\)
計算例として屋根勾配β=15°を計算すると
\(\mu b=\sqrt{\cos(1.5*15)}=0.9611…\)
積雪後の降雨を考慮した積雪荷重の割り増し
2019年1月から積雪荷重の規制がより厳しくなりましたその内容は積雪後の降雨を考慮した割り増しです。近年の大スパン建築において雪荷重により屋根の崩落事故が多くなっていることから規制が厳しくなりました。
その内容は平19国交告第594号第2に規定されています。
令第86条第2項ただし書の規定により特定行政庁が指定する多雪区域以外の区域(同条第1項に規定する垂直積雪量が0.15m以上である区域に限る。)内にある建築物(屋根版がRC造又はSRC造を除く。)が特定緩勾配屋根部分(屋根勾配が15度以下で,かつ,最上端から最下端までの水平投影の長さが10m以上の屋根の部分をいう。)を有する場合
平19国交告第594号第2
降雨を考慮した割り増し係数を見込む条件は
- 多雪区域以外
- 垂直積雪量15cm以上
- 棟軒間の水平長さ10m以上
- 屋根勾配15度以下
割増係数の式は
\(\alpha=0.7+\sqrt{\dfrac{dr}{\mu b*d}}\)
dr:屋根勾配と棟から軒までの水平投影長さに応じた値(表の値)
μb:屋根勾配係数
d:垂直積雪量(m)
[直線補間したdrの算定式]
\(dr=\dfrac{1610+131L-90\beta -7L\beta}{52000}\)
L:棟から軒までの水平投影長さ
β:屋根勾配(度)
計算例として屋根勾配β=10° 棟から軒までの水平投影長さを30m,垂直積雪量0.3mで計算すると
\(dr=\dfrac{1610+131*30-90*10-7*30*10}{52000}\)
\(dr=0.049\)
\(\mu b=\sqrt{\cos(1.5*10)}=0.98\)
\(\alpha=0.7+\sqrt{\dfrac{0.049}{0.98*0.3}}\)
\(\alpha=1.11\)
この条件では約1.11倍積雪荷重を割り増す必要があることがわかりました。
積雪荷重の計算例
ここでは具体的な積雪荷重の計算を行います。
まずは積雪荷重Sを求めます。式は
\(S=d*\rho *A=30*20*150=90000N=90kN\)
つぎに屋根勾配係数を求めます。式は
\(\mu b=\sqrt{\cos(1.5\beta)}\)
\(\mu b=\sqrt{\cos(1.5*10)}=0.98\)
つぎに降雨による割り増し係数を求めます。drの値は
\(dr=\dfrac{1610+131*30-90*10-7*30*10}{52000}\)
\(dr=0.049\)
割り増し係数の値は
\(\alpha=0.7+\sqrt{\dfrac{0.048}{0.98*0.3}}\)
\(\alpha=1.11\)
最後に低減と割り増しを考慮した積雪荷重S’を算出すると
\(S’=S*\mu b*\alpha=90*0.98*1.11=98.2kN\)
引用元:建築物荷重指針・同解説
お知らせ
積雪荷重の算定シートを作成しました。
有料にはなりますが、皆様の設計の一助となれば幸いです。ぜひダウンロードしてください!!
まとめ
今回は積雪荷重についてまとめてきました。積雪荷重は建築設計において重要なキーワードです。
もし積雪荷重が分からなくなった場合はこちらの記事を参考にしてみてください!!
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